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ビール製造後に出る「麦芽かす」を、植物性たんぱく質にアップサイクル!


クラフトビールの人気も相まって、昨今のビール市場は種類が豊富で魅力的になってきました。そんな中、注目され始めてきたのがビールの製造工程で大量に出る「麦芽かす」の有効利用。2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標「SDGs」でも、食料問題は重要なテーマとなっています。「食べられるものは捨てずに活用する」ことが、飢餓のない世界の実現へとつながっていきます。今回は、そんな大きな目標へと向かう、小さいけれど大切にしたい取り組みのお話です。

世界中で大量に廃棄されている“麦芽かす”

ビールの主な原料は麦芽(モルト)とホップと水です。麦芽は大麦を発芽させ、高温で乾燥させたもので、これを温水に入れてでんぷんを糖化させ、ろ過することでビールの素となる麦汁ができます。ろ過した残りの「麦芽かす」は、これまで飼料や肥料として使われる以外は廃棄されてきました。例えば、ある醸造所では200リットル(ロング缶400本)のビールをつくるのに約60キログラムの麦芽かすが出るとされ(※1)、これを世界のビール製造量(※2)で計算すると年間の廃棄量はおよそ5700万トン以上にもなることに。これは、単にコストがかかるというだけでなく、環境への負荷の面でも大きな問題となっています。

麦芽かすが、高たんぱく低糖質の粉末に変身

そんな中、麦芽かすを“アップサイクル”するさまざまな動きが出てきています。アップサイクルとは、不要になったものを廃棄せず、より価値の高いものにつくり替えることで、廃棄物をいったん元の資源の状態に戻して再生させる“リサイクル”とは異なり、廃棄物や不要品の素材や特徴をそのまま活かすのがポイントです。

もともと、麦芽かすは人が食べるのには向いていないとされてきました。しかし、高たんぱく・高食物繊維・低糖質であることから、最近では栄養面でとても優れている点に関心が寄せられ、栄養価を活かそうと各国で商品開発が進められています。
アメリカでは麦芽かすの味や香りを活かし、大麦由来の“たんぱく質粉末”が誕生しました。大麦たんぱくは95%が水に溶ける性質で、バーリーミルク(大麦ミルク)という植物性ドリンクとして人気を博しています。たんぱく質粉末は、味に癖がないこともあり、ドリンクのみならず料理やお菓子づくりにも適しています。

麦芽かすを乾燥・製粉してつくられるのが、“スーパーフラワー”。小麦粉の代わりに使うことができ、通常の小麦粉と比べると、プロテインが2倍、食物繊維は12倍あり、逆に敬遠されがちな炭水化物は3分の1、グルテンの量は40分の1にまで抑えられています。こうした驚くべき栄養価を持つことから、スーパーフードとして注目されています。現在、アメリカやヨーロッパを中心に、パンやラーメンなどいろいろな食品に活用されています。

日本でも注目されつつあるアップサイクル

こうした海外の麦芽かすのアップサイクルには、日本でも関心が高まっています。麦芽かすの再利用プロジェクトを立ち上げたり、スーパーフラワーを使ったそばやお菓子などをビールと一緒に楽しむイベントが開催されたりするなど、徐々に裾野が広がりつつあります。

麦芽かすと同じように、廃棄されてしまうものでも高い栄養価や味わいに目を向けアップサイクルすることで、新たな商品開発の可能性が開ける素材も少なくないでしょう。それが将来的に食品ロスを減らし、地球規模の環境問題の解決に一役買うかもしれません。

※1)京都ビアラボで実際に仕込みをした際の数値 https://malt-upcycle.com/article/report/event-2112-kbl/
※2)世界のビール生産量 19,110万キロリットル(2018年)キリン調べ