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子どもの学力と密接に関係する、便秘と腸内フローラ


大人だけでなく、子どもにも多い便秘。特に小児では、排便時に痛い思いをすると次の排便を我慢してしまい、ますます便が出にくくなるという悪循環に陥ってしまうことがあります。便秘は苦しい思いをするだけでなく、子どもの集中力にも影響することが分かっており、早めに対策を講じることが大切です。今回は、便秘が子どもの学業にもたらす影響や、腸内細菌叢(腸内フローラ)と子どもの脳の発達との関係について、詳しく解説します。

便秘は学習や生活の質に悪影響をもたらす

本来体外に排出すべき便を十分量、かつ快適に排出できない状態を便秘といいます。便秘は、大人だけでなく子どもも経験することが多い病気です。小学生1万2,307人を対象に排便習慣について調査した研究によると、便秘が疑われる児童の割合は26.3%にも上ります*1。

また、高校生1,000人を対象に調査した研究では、20.2%が便秘状態、27.0%が便秘予備軍と、高校生の約半数が便秘もしくはその予備軍であることが明らかになっています*2。便秘状態と考えられる高校生の約9割が「勉強に集中できない」と回答しており、集中していないときにどんな症状を感じるか具体的に聞くと、「眠気」「イライラ」「気分がすぐれない」「頭痛」などの心身の不調を感じていることが分かりました。

便秘がなかなか改善せず、排便がいつ起こるか予測できない状態は不安や不満を招き、日常生活に影響を及ぼします。便秘は子どもの学習に悪影響をもたらすだけでなく、生活の質まで低下させるため*3、決して軽く見てはいけない病気です。

子どもの脳の発達に深く関わる腸内フローラ

近年、脳と腸が互いに密接に影響を及ぼし合うという「脳腸相関」が注目されています。特に、腸内細菌叢(腸内フローラ)は子どもの脳の発達に大きく関わっていると考えられており、健康な腸内フローラを育むことは、子どもの成長にとってとても大切です。慢性的な便秘がある人では腸内フローラのバランスが乱れていることが分かっており*4、腸内フローラを健康に保つには便秘の解消に取り組む必要があります。

乳児の腸内フローラの形成は、胎児の頃から始まっています。これまでは3歳までに成人のような細菌構成になると考えられていましたが、小児~思春期の子どもの腸内フローラは成人とはやや異なることが確認されており、腸内フローラの発達はこれまで考えられていたよりもゆっくり進行する可能性があるといわれています*5,6。

生後3歳までの期間は脳の発達にとって重要であり、860億個のニューロン(脳の神経細胞)が発達し、ニューロン間に100兆個の接続が形成されます。腸内フローラは認知機能の発達に関わっており、乳幼児を対象にした研究では、腸内フローラの細菌構成と認知能力には関係性があることも分かっています*7。また、6~9歳の小児を対象とした研究では、腸内フローラの多様性が高いほど、知能指数(IQ)が高いという相関関係が認められています*8。

便秘解消&腸内フローラ改善には、もち麦ごはんがいい!

子どもの能力を引き出し、学習効率を高めるには、便秘を予防・改善して健康な腸内フローラを維持することが大切です。便秘は食事に大きな影響を受け、食物繊維の摂取不足や慢性的な水分不足は便秘を悪化させる要因になります。便秘解消に取り組むなら、まずは食生活の見直しから始めてみましょう。

基本はバランスのとれた食事を3食とることですが、特に朝食は排便リズムを整える上で重要です。小・中学生を対象とした調査によると、朝食を毎日とらない児童では、毎日とる児童と比べて便秘の割合が高いことが分かっています*1。便をやわらかくするために、朝食には食物繊維が豊富な食品を取り入れるとよいでしょう。

食物繊維の中でも、腸内細菌のエサとなる「発酵性食物繊維」は、便秘の解消や腸内フローラの改善に役立つとして注目されている成分です。発酵性食物繊維は穀物や果物、豆類、いも類などの食品に含まれていますが、特にもち麦にはβ-グルカンという発酵性食物繊維が豊富に含まれています。発酵性食物繊維については「もち麦に豊富に含まれる発酵性食物繊維のチカラ」で詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。

食物繊維が少ない高脂肪食のエサを与えられたマウスにβ-グルカンを与えたところ、腸内フローラが改善し、認知機能が向上したという研究結果も報告されており*9、β-グルカンを豊富に含むもち麦は、学業にはげむ子どもに役立つ食品である可能性があります。もち麦を手軽に摂るなら、白米ともち麦を混ぜて炊く“もち麦ごはん”がおすすめです。子どもに食べさせる場合は、もち麦の割合は白米に対して1割程度から始め、おなかの様子を見ながら調整するとよいでしょう。

参考文献
*1 日本トイレ研究所, 小・中学生の排便記録2023.
*2 日本トイレ研究所, 高校生の排便に関するアンケート調査2021.
*3 Wald A, et al.: Aliment Pharmacol Ther 2007; 26: 227-236.
*4 Chassard C, et al.: Aliment Pharmacol Ther 2012; 35: 828-838.
*5 Ringel-Kulka T, et al.: PLoS One 2013; 8: e64315.
*6 Agans R, et al.: FEMS Microbiol Ecol 2011; 77: 404–412.
*7 Carlson AL, et al.: Biol Psychiatry 2018; 83: 148–159.
*8 Lapidot Y, et al.: Front Pediatr 2023; 11: 1198792.
*9 Shi H, et al.: Microbiome 2020; 8: 143.