ホーム大麦百科/農家さんに聞いた、おいしいもち麦栽培の極意!

農家さんに聞いた、おいしいもち麦栽培の極意!


大麦の中でも食物繊維が多く、粘り気やぷちぷちした食感が人気の「もち麦」。昨今の雑穀ブームに合わせ、国内の生産量も2016年の270トンから2020年には約50倍もの13,322トン(※1)とまさにうなぎ上りです。今では、北は北海道から南は九州まで日本全国で生産されています。今回は、茨城県で農家を営む塚越清記さんにおいしいもち麦作りの秘訣について教えていただきました。

光り輝くキラリモチ、栽培のカギは「排水対策」

鬼怒川を始め、多くの川が隆起してできた水田地帯と、関東ローム層による肥沃な大地が一面に広がる茨城県筑西市。年間を通して比較的気候が温暖で日照時間も多く、農業に適したエリアです。塚越清記さんのお宅は、この地で父の代から50年近く、稲作と同時に大麦・小麦・大豆を栽培してきました。

現在、塚越さんが力を入れて栽培しているのは、“キラリモチ”と呼ばれる、もち性の大麦。その名の通り、キラリと輝くもち麦特有の光沢があり、ほかの大麦に比べて白さが際立つ品種です。また、炊飯後時間が経っても茶色く変色しにくい特長があります。

このエリアでは、大半の農家が稲作と畑作をそれぞれ別の土地で行っていますが、塚越さんは水田を畑に変えて別の作物を栽培する「水田転換畑」を採用しています。米を作る土地を有効活用し、大麦や小麦、大豆などいろいろな作物を収穫できるメリットがあります。しかし、栽培方法の異なる米と同じ場所で育てるため、長年大麦栽培を重ねてきた現在でも、試行錯誤の繰り返しです。とりわけ、キラリモチは大麦の中でも湿害に弱く、徹底的な排水対策が欠かせません。そもそも稲作は田んぼに水を張るため、中の水が流れ出ないように盛り土で囲みます。畑に変える際は、田んぼに溜まった水をしっかり抜かなければならず、盛り土に約20~30センチほどの排水溝を掘って、地表から用水路に流れやすくします。

約20~30センチほど掘られた排水溝の様子

土壌を整えて、大麦の生長を促す

よい麦を育てる決め手は、まず“土づくり”です。大麦に適した土はpH6.0くらいの「微酸性」。米よりもやや酸性気味です。そのため、石灰などの有機物を散布し、酸度を適正な値に調整します。さらに、チッ素・リン酸・カリのほか微量要素入りの肥料を使用しており、その中でも重要なのが苦土(マグネシウム)です。作物内に0.01%以下しか存在しない“微量要素”ですが、光合成をする葉緑体にとって必要不可欠な養分で、不足すると葉が黄色くなるなどの被害が出てしまいます。ごくわずかながら適量の苦土を肥料に加えることで、大麦が栄養分を補給し、充分に光合成をして生長しやすくします。

「麦踏み」で、より丈夫で質のよい麦作りを

専用の作業機を使用して行う「麦踏み」の様子

丈夫な大麦を作るには「麦踏み」も大事です。といっても足で麦を踏むのではなく、麦踏み専用の作業機を使用します。塚越さんの場合は、毎年1月から2月の寒い乾燥した時期に、ていねいに3回ほど鎮圧します。麦は踏まれることで生理活性が高まって根元から新芽が出やすくなり、生産量が上がります。さらに、生長点(茎の先端部分)を押さえて地上部分の生育を抑制することで根の張りがよくなり、風に倒されにくい強い麦に生長するなど、さまざまな効果が生まれます。

麦踏み前の大麦(左)と機械で麦踏みをした直後の大麦(右) 生長点が押さえられ、地面に横たわっている様子(右)。1週間から10日ほどで再び茎の先端が起き上がり、生長を続ける

安心・安全な大麦をより多くの消費者に届けたい

キラリモチはほかの大麦より収穫時期が短いという性質があります。さらに、収穫前に長雨にあたると穂が発芽しやすくなるため、毎年6月の入梅前に確実に収穫作業を終えなくてはなりません。そして、11月中旬から下旬までに種まきをし、早めに芽が出るようにしています。種まきをした日の天候や土壌の水分量、種まきをした土の深度など、毎年あらゆる点を見直すことで、翌年のよりよい栽培につなげています。

塚越さんの畑は、数十もの圃場(作物を栽培する場所)が数カ所に分かれており、エリアによって大麦の生長も少しずつ異なります。根の張りが弱いと、肥料も吸えず充分な生育量を確保する前に早く穂が出てしまうことも。そこで、生長の度合いが似たような畑では、それぞれの適期に合わせてまとめて収穫ができるように心がけています。そのためにも、離れているすべての圃場を常に見回り、生長過程の確認を欠かさず行っています。

収穫後は、米と同じように乾燥機に通した後、外花穎(穀粒を包む皮)を取り除く作業として籾すり機を使用したのち、粒の大きさの選別などをします。また、キラリモチは白さが特長なので「色彩選別機」にかけ、変色した不良品を取り除いて出荷しています。

見た目も美しく、健康面でも注目のキラリモチ。より多くの消費者に届けられるよう安心・安全な栽培を心がけ、さらなる品質向上をめざして、塚越さんは日々奮闘中です。私たちの食卓にも頻繁に登場するもち麦。手塩にかけて育てた生産者の思いを受け止め、おいしくいただきたいものです。

※1)農林水産省 農作物検査結果 2021年11月もち性大麦品種標準作業手順書より