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良質なたんぱく質を摂って、フレイルを予防しよう


高齢化率の上昇が続くなか、日常生活が制限されることなく健康に過ごせる時間(健康寿命)をいかに延ばすかが国を挙げた課題となっています。特に重要とされているのが、フレイルの予防です。今回は、要介護の一歩手前の段階とされるフレイルとはどのような状態を指すのか、予防のためにはどんな食事を摂るべきなのかについて解説します。

フレイルとは、どんな状態?

加齢により心身が衰えた状態は、英語で「frailty(フレイルティ)」と表現されます。frailtyは「虚弱」や「老衰」などを意味する言葉ですが、2014年に日本老年医学会が日本語訳を「フレイル」にすることを提唱しました。

フレイルとは、「老化に伴うさまざまな機能の低下(予備能力の低下)により、外的なストレスに対する脆弱性が増し、健康障害に陥りやすい状態」を指します。つまり、からだの機能が衰えているために感染症などの病気にかかりやすく、要介護状態になりやすい状態のことです。

判断基準として、①体重減少、②疲労感、③日常生活の活動量の減少、④身体能力(歩行速度)の減弱、⑤筋力(握力)の低下、のうち3項目が当てはまればフレイルであると定義されています*1。

「虚弱」というと回復できない状態をイメージさせますが、フレイルは健康な状態と要介護状態の中間を指し、適切な対策をとることで機能を回復させることが可能です。そのため、家族や医療者がフレイルにできるだけ早く気づき、食事や運動などによる対策を行うことが重要なのです。

フレイル予防のために食事で気を付けたいこと

加齢に伴って筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下することを「サルコペニア」と呼びますが、サルコペニアはフレイルの原因の1つとされています。

からだを動かすために必要なエネルギーや筋肉などをつくるたんぱく質が不足した状態(低栄養)が続くと、サルコペニアを発症し、活力や筋力・身体機能の低下につながります。それによって活動度が低下すると消費エネルギーも低下するため、食欲が出ず、さらに栄養状態が悪化するという負のサイクルに陥ってしまいます。

これを予防するには、エネルギーを十分補給し、食事からたんぱく質をしっかり摂取することが重要です。基礎代謝は加齢とともに減少するため、高齢者では1日に必要とされるエネルギーが少なくなりますが、30~49歳と65~74歳のエネルギー必要量の差は200~300kcal程度です*2。健康のためには粗食が大切と考える人は少なくありませんが、食事量を減らしすぎると必要なエネルギーを摂れない可能性があるため注意が必要です。

筋肉量や筋力、身体機能はたんぱく質と強く関連することから、フレイル対策においてたんぱく質は特に重要な栄養素です。複数の研究報告を総合的に解析した研究によると、たんぱく質の摂取量が多い人ほどフレイルになりにくいことが報告されています*3,4。フレイル予防のためには、高齢者でも1日に体重1kgあたり1.0g以上のたんぱく質を摂取することが大切です。

2020年に改訂された「日本人の食事摂取基準」では、高齢者のフレイル対策が重視され、摂取するエネルギーのうち最低でも15%はたんぱく質から摂ることを目標に定めています*2。加齢に伴って食欲や噛む力が落ちると、たんぱく質の主な供給源である主菜の摂取量が減ってしまう傾向があるため、高齢者では意識して主菜を摂るように心がける必要があります。

そのほか、血液中のビタミンD濃度が低いとフレイルの発症リスクが高いことが分かっており*5、ビタミンDの摂取もフレイル予防には重要です。ビタミンDは紫外線を浴びることで皮膚でもつくられるため、適度に日光に当たるようにしましょう。

フレイル予防におすすめのたんぱく質源とは?

たんぱく質はさまざまな種類のアミノ酸が結合してできた栄養素ですが、なかでもバリン、ロイシン、イソロイシンの3種類のアミノ酸(BCAA)は筋肉量を増やす上で重要だと考えられています。特に、ロイシンは筋肉細胞に働きかけ、筋たんぱく質の合成を刺激する作用があると言われています。

ロイシンを多く含む食品として、チーズ、豚肉、牛肉、ハム、さば、大豆、豆乳、卵(卵黄)などがあります*6。高齢者では、食後に起こる筋たんぱく質の合成が若年者と比べて低下していることから、食事のなかにロイシンを多く含む食品を積極的に取り入れるとよいでしょう。

植物由来の食品のなかでは、大豆・大豆食品がロイシンを多く含み、アミノ酸のバランスにも優れています。肉の代わりとして近年注目が高まっている大豆ミートも、良質なたんぱく質供給源です。大豆ミートの健康効果については、「代替肉として、いま注目の大豆ミート。その健康効果とは?」で詳しく紹介しているので、そちらもあわせてご覧ください。

筋たんぱく質の合成は運動によって誘導されるので、筋肉量を増やすにはたんぱく質を十分摂取するとともに運動を行うことも重要です。特にレジスタンス運動(いわゆる筋トレ)が有効とされており、フレイル予防のためには栄養面を考えた食事と適度な筋トレを組み合わせることがより効果的だと言えるでしょう。

*1 Fried LP, et al.: J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2001; 56: M146-56.
*2 「日本人の食事摂取基準」策定検討会: 日本人の食事摂取基準(2020年版), 2019.
*3 Coelho-Júnior HJ, et al.: Nutrients 2018; 10: 1334.
*4 Lorenzo-López L, et al.: BMC Geriatr 2017; 17: 108.
*5 Zhou J, et al.: Maturitas 2016; 94: 70-76.
*6 日本栄養・食糧学会: 食品の遊離アミノ酸含量表, 2013.