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高たんぱく質食のダメージからからだを守る食事術


近年、ダイエットやトレーニングなどの目的で、高たんぱく質・低炭水化物の食生活を実践している人が増えています。たんぱく質は健康なからだづくりのために必要な栄養素であり、特に高齢者は筋肉量を維持するために積極的に摂る必要があります。しかし、摂りすぎは腸内環境を悪化させ、炎症性の病気の発症にもつながるおそれがあります。今回は、高たんぱく質食がからだにもたらすダメージとそれを予防するための食事術について詳しく解説します。

1日に必要なたんぱく質の量って、どのくらい?

たんぱく質は、筋肉や臓器などを構成する重要な成分の1つです。また、酵素やホルモンとして代謝を調節したり、抗体として生体防御を司ったりと、様々な機能も担っています。さらに、酸化されるとエネルギー源としても利用され、1gあたり4kcalのエネルギーを生み出すことができます。

食事から摂取したたんぱく質は消化酵素によって分解され、その構成要素であるアミノ酸やアミノ酸が2~3個結合したペプチドとして、小腸から吸収されます。からだの中にあるたんぱく質は合成と分解が繰り返されており、構成しているアミノ酸は絶えず食事由来のアミノ酸に入れ替わっています。そのため、私たちは毎日必要な量のたんぱく質を食事から摂取しなければなりません。

からだを維持するために必要な1日のたんぱく質摂取量は、体重1kgあたり0.66gとされています。ただし、これはからだにとって必要最低限の量であり、生活習慣病の予防などの観点から、厚生労働省はそれ以上のたんぱく質を摂取することを推奨しています。65歳以上の高齢者では、加齢にともなって減少していく筋肉量や筋力を維持するために若い人よりも多くのたんぱく質摂取が必要であり、1日のたんぱく質摂取量は体重1kgあたり少なくとも1.0g以上とすることが望ましいとされています*1。

「日本人の食事摂取基準」では、たんぱく質の摂取目標量が1日の摂取エネルギーに対する割合で示されており、49歳以下は13~20%、50~64歳は14~20%、65歳以上は15~20%となっています*1。たとえば、35歳の男性で1日の摂取エネルギーが2,500kcalの場合、たんぱく質の目標量は81~125g程度となります。

高たんぱく質食は腸内の毒素を生み出す要因に!?

ダイエットや筋力トレーニングなどに取り組む際はたんぱく質を意識的に摂るべきと考えられており、手軽にたんぱく質を摂れるプロテインサプリメントを利用する人も少なくありません。たんぱく質を多く摂取する場合に気になるのが腎機能への影響ですが、健康な人の場合では35%エネルギー未満であれば腎機能を低下させることはないと考えられています*2。たとえば1日の摂取エネルギーが2,500kcalの場合で換算すると、218gとかなりの量に相当します。

ただ、健康な人であればたんぱく質をたくさん摂っても全く問題ないかというと、そうではありません。食事から摂取したたんぱく質はほとんどが小腸で吸収されますが、たんぱく質を多く摂ると消化を逃れて大腸に到達するたんぱく質が増加します。これらのたんぱく質は腸内細菌によって発酵され、様々な代謝物質に変換されますが、その中にはp-クレゾールやインドール、アンモニアなどの細胞毒性のある物質も存在します。実際に、食事の総エネルギー量や炭水化物摂取量を変えずにたんぱく質摂取量を増やしたところ、糞便中のアンモニアや尿中のp-クレゾールが増加したという報告があります*3。

たんぱく質発酵によって作られる毒性物質は、大腸の粘膜細胞の機能障害、粘膜バリアの機能低下、炎症などを引き起こします。過度のたんぱく質発酵は便秘や悪臭のある腸内ガスを発生させたり、過敏性腸症候群や潰瘍性大腸炎、大腸がんなどの発症リスクを高めたりするおそれがあるため*4、過剰なたんぱく質の摂取には注意が必要です。

たんぱく質を多く摂るなら、もち麦ごはんも一緒に摂ろう!

ダイエットやトレーニングの目的でたんぱく質を多く摂る場合、食事全体のエネルギー量が増えないように炭水化物を減らしてしまいがちですが、それが腸内フローラに悪影響をもたらすことがあります。

実際に肥満の人を対象にした研究によると、4週間にわたって高たんぱく質・低炭水化物(エネルギー比:たんぱく質30%、炭水化物4%)または高たんぱく質・中程度の炭水化物(エネルギー比:たんぱく質30%、炭水化物35%)の食事を摂取してもらったところ、通常の食事(エネルギー比:たんぱく質13%、炭水化物52%)を摂取した場合と比べ、ビフィズス菌や酪酸菌などの有用菌が減少し、短鎖脂肪酸の産生量が減少したと報告されています*5。

短鎖脂肪酸とは、腸内の有用菌が発酵性食物繊維などをエサにして作り出す代謝物質のことです。腸の上皮細胞のエネルギー源として利用されるほか、腸内環境を酸性に傾けて有害菌の増殖を抑えたり、炎症を抑制したりする作用があり、腸の健康を維持する上で重要な役割を果たしています。

この研究では、高たんぱく質の食事では炭水化物の摂取量を通常食より減らしており、発酵性食物繊維の摂取量も少なくなっていました。このことが、腸内フローラのバランスが崩れ、短鎖脂肪酸が減少した大きな要因だと考えられます。

たんぱく質を多く摂るときこそ、有用菌のエサとなる発酵性食物繊維を積極的に摂ることが大切です。発酵性食物繊維は短鎖脂肪酸の産生量を増やして腸内環境を改善するだけでなく、毒素を作り出すたんぱく質発酵を抑制する効果も期待できます*6。発酵性食物繊維は穀物や果物、豆類、いも類などに多く含まれていますが、中でも、もち麦はβ-グルカンやアラビノキシランなどの発酵性食物繊維を豊富に含む食品です。食事でたんぱく質を摂る際は、もち麦ごはんもセットで摂るようにして、積極的に発酵性食物繊維の摂取量を増やしていきましょう。
  

*1 「日本人の食事摂取基準」策定検討会: 日本人の食事摂取基準(2020年版), 2019.
*2 Elswyk MEV, et al.: Adv Nutr 2018; 9: 404–418.
*3 Geypens B, et al.: Gut 1997; 41: 70–76.
*4 Yao CK, et al.: Aliment Pharmacol Ther 2016; 43: 181-196.
*5 Duncan SH, et al.: Appl Environ Microbiol 2007; 73: 1073–1078.
*6 Muir JG, et al.: Am J Clin Nutr 2004; 79: 1020-1028.