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秋ではなく初夏の季語「麦秋」


麦の穂がたわわに実る5月下旬から6月初旬が「麦秋」

麦秋(むぎあき)や 子を負いながら 鰯売り

小林一茶のこの句は、あたり一面、黄金色に染まった麦畑の道を、鰯売りの行商をしている女性が赤ちゃんをおんぶしながら歩いている様子を詠んだものです。では、季節はいつなのでしょうか? 季語は麦秋で「ばくしゅう」とも読みますが、この句の季節は初夏なのです。地域によって異なりますが、一般的に麦の種を蒔くのは晩秋から初冬にかけて。寒い冬に芽を出し、春の暖かさを迎えるとすくすくと育ち、やがて麦畑は鮮やかな緑色で覆い尽くされます。そして、初夏。麦の穂がたわわに実り、麦畑が黄金色に染まる5月下旬から6月初旬のこの時期が「麦秋」です。ちなみに、二十四節気を3つに分けて、約5日ごとに気象や動植物の変化を示す「七十二候」には、「麦秋至(むぎのときいたる)」という侯があります。

季節を示す「麦」にまつわるさまざまな言葉

もともと、「秋」という言葉には穀物が成熟した収穫の時期という意味があるようです。江戸時代に季語を解説した書物『滑稽雑談(こっけいぞうだん)』の中にも、「秋とは穀物が成熟する時期であり、麦においては実りの季節である初夏が秋といえる」といったような内容の解説がされています。つまり、初夏は“麦の秋”であり、稲穂が頭を垂れる9~10月ぐらいは“米の秋”といえるでしょう。米と同様、太古から日本人の生活の中で重要な役割を担ってきた麦には、「麦秋」以外にもさまざまな季語があります。たとえば、「麦蒔(むぎまき)」は初冬、麦が強く育つように行う「麦踏(むぎふみ)」は早春、青々と育った様子を表す「青麦(あおむぎ)」は春、「麦扱(むぎこき)」「麦刈(むぎかり)」「麦打(むぎうち)」など刈り入れにまつわる言葉は初夏。さらに、麦が熟するこの時期に降る雨を「麦雨(ばくう)」、収穫のころに吹くさわやかな風を「麦嵐(むぎあらし)」といいます。季節のうつろいを麦にまつわる言葉とともに感じてみてはいかがでしょうか。