内側から整える食生活のすすめ
食べるからだメンテナンス
ファイバーマキシングとは? 世界が注目する新しいウェルビーイングのカタチ

近年、TikTokやInstagramなどのSNSで話題となっている「fibermaxxing(ファイバーマキシング)」。「maxxing」とは特定のものを最適化・最大化するという意味のスラングで、食物繊維(fiber)の摂取量を積極的に増やそうという今注目のヘルストレンドです。今回は、ファイバーマキシングがブームとなった背景や食物繊維の健康効果、ファイバーマキシングを実践する際のコツについて詳しく解説します。
たんぱく質の次のトレンドは「食物繊維」!
ここ数年、スーパーやコンビニの棚には「高たんぱく」を謳う商品があふれ、プロテインはアスリートだけでなく、健康を意識する一般層にも広く浸透しています。この「たんぱく質ブーム」が成熟しつつある今、ヘルスケア市場の次なる主役として急浮上しているのが「食物繊維」です。
コカ・コーラやペプシコ、マクドナルドのCEOが2026年の注目トレンドとして食物繊維を挙げており、大手食品・飲料メーカーはこぞって食物繊維を強化した新商品の開発に注力しています。また、世界的な市場調査会社であるMINTELも2026年のトレンド予測として「たんぱく質と食物繊維が注目を集める」という市場レポートを発表しており、食物繊維に対する注目度は世界的に高まっています。
このムーブメントの火付け役となっているのが、TikTokなどのSNSを使いこなすZ世代です。2025年の夏頃から、1日あたりの食物繊維摂取量を推奨量(あるいはそれ以上)まで増やそうとする行動「ファイバーマキシング(fibermaxxing)」が欧米のZ世代の間で一大トレンドとなり、ハッシュタグ「#fibermaxxing」を付けた投稿の閲覧回数は1.6億回を超えています。
この熱狂の背景には、現代の食生活に潜む深刻な栄養の偏りがあります。アメリカでは、男性の97%、女性の90%以上で1日に摂る食物繊維が推奨量を満たしておらず、成人のほとんどが食物繊維不足にあります*1。この状況は、日本でも同様です。
こうした背景がある中、「健康で美しい自分を保つためには、まず腸内環境を整える必要がある」という認識がSNSを通じて広がったことで、Z世代の関心が食物繊維へと向かうようになりました。また、アメリカでは20~49歳の若い世代における大腸がんの発症率が年間3%増加しているという状況もあり*2、腸の健康に対する意識の高まりもブームを後押ししているものと考えられます。
なぜ今、食物繊維なの? その驚くべき健康効果とは
食物繊維は摂取目標量が定められているように、からだにとって欠かせない成分です。食物繊維と健康の関係は世界中で研究されており、複数の大規模な研究を統合して解析した論文によると、食物繊維の摂取量が多い人ほど心血管疾患による死亡や膵臓がんのリスクが低いと報告されています*3。別の研究報告では、食物繊維の摂取量が多い人では少ない人よりも脳卒中や2型糖尿病、大腸がんの発症率が15~30%低いことも示されています*4。
また、近年は食物繊維が腸内細菌を介して全身の健康に影響を与えるメカニズムが解明されてきており、腸内細菌のエサになる「発酵性食物繊維」に注目が集まっています。腸内の有用菌が食物繊維を発酵・分解すると、短鎖脂肪酸という酸が作られます。短鎖脂肪酸は、腸のエネルギー源となって腸管の正常な働きを維持したり、免疫機能を調整して炎症を制御したりすると考えられており、人の健康に重要な役割を担っています。
さらに、短鎖脂肪酸は痩せホルモンとよばれる「GLP-1」の分泌を促進することも分かっています*5。GLP-1は小腸から大腸にかけて分泌されるホルモンで、食後すぐに小腸で分泌されるほか、大腸では短鎖脂肪酸によって持続的に分泌が促進されます。GLP-1には血糖値を正常に保ったり、脳に作用して食欲を抑えたりする作用があり、この作用に着目したGLP-1受容体作動薬は糖尿病や肥満症の治療薬としても承認されています。
つまり、発酵性食物繊維をしっかり摂れば、GLP-1の分泌量が自然と増え、太りにくいからだを作ることにつながると期待されます。アメリカで食物繊維が「天然の減量薬」と言われるのは、このためです。
ファイバーマキシングを実践するには? 知っておきたいコツと注意点
ファイバーマキシングは医学用語ではなく、SNS発祥の考え方なので、その意味を明確に定義することはできません。安全に、無理なくファイバーマキシングを実践するには、次のことを意識するとよいでしょう。
① 食物繊維は急激に増やさず、徐々に増やす
「マキシング」というと、できるだけ食物繊維を多く摂ればいいと考えてしまいがちですが、これまで食物繊維が不足気味だった人が急に大量に摂取すると、腸内環境がその変化に対応できません。その結果、ガスが過剰に発生したり、ひどい膨満感や腹痛を感じたり、便秘がかえって悪化してしまったりする可能性があります。特に、過敏性腸症候群などのおなかの病気がある人は慎重になるべきです。
最初は「いつもの食事に小鉢の野菜を足す」「いつものごはんにもち麦を混ぜてみる」「間食をお菓子から果物に変える」など、できることから少しずつ始め、おなかの調子を見ながら徐々に食物繊維を増やしていきましょう。
② サプリメントよりホールフードを
手軽に食物繊維を摂取する方法として、サプリメントや食物繊維を添加した飲料・加工食品を利用することもできますが、基本は野菜、果物、全粒穀物、豆類、海藻、きのこ類といった「ホールフード(丸ごとの食品)」から摂取することを優先しましょう。
ホールフードには食物繊維だけでなく、ビタミンやミネラル、ポリフェノール、カロテノイドなどの様々な微量栄養素が豊富に含まれています。食品による健康効果を高めたいなら、これらをバランスよく摂ることが大切です。
③ 発酵性食物繊維を意識して増やす
腸内細菌を介した健康効果を期待するなら、発酵性食物繊維を意識して摂るとよいでしょう。発酵性食物繊維は、もち麦や豆類、根菜類、きのこ類などに多く含まれています。
特に、もち麦には発酵性の高いβ-グルカンやアラビノキシランという食物繊維が含まれており、マウスを用いた研究によると、摂取することで腸内の短鎖脂肪酸の産生を介してGLP-1の分泌量が増え、食後の血糖値の上昇が抑えられるという研究報告もあります*6。
もち麦ごはんで手軽にファイバーマキシングを始めよう!
ファイバーマキシングを始めるなら、まずは1日あたりの摂取目標量をクリアすることを目指しましょう。30~64歳の場合、1日に摂りたい食物繊維は男性で22g以上、女性で18g以上とされています*7。しかし、実際の平均摂取量は30代男性で18.3g、30代女性で14.9gとなっており、男女とも3~4gほど足りていません*8。
不足分の食物繊維を補う簡単な方法としておすすめなのが、主食をもち麦ごはんに変えることです。1日2杯のもち麦ごはんで約4gの食物繊維を摂取でき、発酵性食物繊維も摂ることができます。特別なことをするのではなく、毎日の主食を食物繊維の供給源にシフトさせることは、日本人にとって最も手軽で理にかなったファイバーマキシングの実践法です。
もち麦ごはんの作り方はとっても簡単。いつもの白米にもち麦をプラスして炊くだけで、今日からすぐに始められます。「麦ごはんの炊き方」を参考に、ぜひトライしてみてください。
*1 U.S. Department of Agriculture and U.S. Department of Health and Human Services., Dietary Guidelines for Americans, 2020-2025. 9th Edition.
*2 Siegel RL, et al.: CA Cancer J Clin. 2026; 76: e70067.
*3 Veronese N, et al.: Clin Nutr. 2025; 51: 325-333.
*4 Reynolds A, et al.: Lancet. 2019; 393: 434-445.
*5 Tolhurst G, et al.: Diabetes. 2012; 61: 364-371.
*6 Mio K, et al.: Biosci Biotechnol Biochem. 2022; 87: 99-107.
*7 厚生労働省, 日本人の食事摂取基準(2025年版).
*8 厚生労働省, 令和6年国民健康・栄養調査報告.